2021年のラマダーン月 in ベイルート
ラマダンを通してレバノンを見る企画、最終回は番外編!
ラマダンの定番料理、スイーツ、そして食事を提供し人々の生活を支え続ける団体など・・・ラマダンにかかせない食べ物の情報から、今年のラマダンの厳しさまでをお伝えしてきました。
今回は、そんな今年のラマダンの様子を現地から。ベイルートに暮らすNGO職員の風間さんからのレポートをお届けします。
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イスラーム教徒が多い西ベイルート最大の繁華街ハムラーのラマダーン
通りにファーヌース(ランタン飾り)や連続旗の飾り、大音量の音楽で街が華やか雰囲気に包まれ、イスラーム教徒は、家族で街に出かけて新しい服を買い、親戚家族や友人と断食明けの食事(イフタール)を食べ、貧しい人も、街の通りやモスクの前に並べられたテーブルで、施しで提供されたイフタールを大勢で食べるなど、人々が助け合うというポジティブな雰囲気につつまれる特別な期間。これが私の思い浮かべるラマダーン月のイメージです。しかしながら、現在のレバノンの首都ベイルートにおいて、そのような様子はあまり感じられませんでした。
下の写真は、イスラーム教徒の多い西ベイルート最大の繁華街、ラマダーン終了まであと数日のハムラー地区の日没時の様子です。
シャッター街と化しているハムラー地区。車通りもあまりありません。小さなテーブルを歩道に出してイフタールを食べる人もいるにはいた、という程度。少し歩くたびに物乞いする方々に声をかけられます。
ハムラー地区の有名なサンドイッチショップ。お客はほとんどおらず、デリバリーのバイクが数台止まっている程度。
タクシーの運転手に話を聞くと、「経済危機、新型コロナ前のハムラー地区のラマダーンは、人であふれ、歌ったり踊ったり、すごかったよ」と寂しそうにおっしゃっていました。また、知り合いのレバノン人イスラーム教徒に「レバノンのラマダーン月って、毎年こんなに静かで、街を飾ったりもしないの?」と聞くと、「経済危機のせいだよ。知っての通り、レバノンはほとんどすべての物を輸入に頼っているから、通貨価値が暴落して食べ物を確保するのに精いっぱいで、装飾を買う余裕なんて無いよ」と話してくれました。
経済危機と新型コロナウィルスの影響
レバノンは2019年後半から始まった外貨不足や政情不安、新型コロナウィルスやベイルート大規模爆発事件が追い打ちをかけ、この1年半で実質的な通貨の価値は1米ドル=1,500レバノンポンドから、12,000レバノンポンド(一時15,000ポンド)にまで下落し、月の最低賃金は450米ドルから約50米ドルにまで低下、失業率も上昇しています。にもかかわらず、食糧価格は400%値上がり(レバノンポンド建てで)しており、難民生活を強いられているシリア人等の方々だけでなく、レバノン人でも、最低限の食糧を買うために借金をする人々が増加しています。
これらの写真は、レバノンで最も整備されたショッピングモールのラマダーン飾り。人通りは少なく、買い物袋を持っている人はなおさら少ない。決して貧しい家庭ではない中流層のレバノン人女性も、「ショッピングモールで服を買っていたけど、高くなりすぎてもう1年も洋服を買ってない。インターネットでトルコの服で比較的安いのが見つかったから、それを買うかも」とのこと。
またレバノン政府は、新型コロナウィルスの感染拡大防止のため、貧しい人々を含む様々な人々が集まってイフタールを食べること(ラマダンテント等)を禁止し、更に夜に人々が集まらないよう、夜9時半から朝5時の時間帯は原則外出禁止としています。また、市民のレベルでも、特に高齢者が家族にいる場合は、世帯外の人々との付き合いを極力避ける方も多いようです。実際、私のイスラーム教徒の友人も、ラマダーン月の間は親戚で集まる機会はどうしてもあるため、「高齢の親族の感染リスクを最小限にしたいので、ラマダーン月に会うのは難しいね」という話になり、会えていません。
以上のような状況から、大勢で集まっておいしい食事と会話を楽しみながら過ごす、また余裕のある人は貧しい人々へ施しを与えるというラマダーン月のイベントを催すことが経済的にも社会状況的にも難しくなっているのが現状です。
日本でも新型コロナウィルスの感染防止を理由とする飲食店の営業時間短縮などの影響で、特にサービス業で非正規雇用として働いていた女性や、外国人の方等が自力で生きられないほど貧困化していることがあらわになり、貧困に陥らないように国としてどのような政策をとるべきかが喫緊の課題となっています。正式な政府が昨年8月から存在せず、市民の大半が貧困化しているレバノンでは、国連や現地NGOや国際NGOが、炊き出しや食糧バスケットの配布、現金支給等を行うことで、人々の暮らしを支えています。国内での相互扶助機能だけでは到底支えきれない人々の生活を支えるため、こうした団体へ寄付することも考えてみてはいかがでしょうか。
〇レバノンに暮らす人々への支援活動を行っている団体・寄付先はこちらから。
・WFP :食糧支援
・UNHCR :難民だけでなくレバノン人を含む人々への全般的支援
・URDA: 食糧、保健、教育、保護、開発支援等全般
・Caritas Lebanon:食糧、保健、開発、教育支援等全般
・パレスチナ子どものキャンペーン: パレスチナ人、シリア人への食糧、医療、心理社会的支援等
・セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン : 住居支援、心理社会的支援等
・パルシック: 食糧、衛生、住居、教育支援等
場所は変わって、下の写真は西ベイルートのマズラア地区のラマダーン最終日の夕方。
ハムラー地区よりもどちらかと言えば地域密着型の街であるためか、街にもまだ活気があって、両手にスウィーツなどの食糧をもって家に帰る人々、美容院に行く女性、車で街をまわり地面に座り込んでいる人に食事を手渡す様子も見られ、少し安心しました。
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ラマダン期間は終了、レバノンでもイードのお祝いが行われたよう。
それでも、経済的な困難はまだまだ続いています。
これからも、レバノンとそこに暮らす人々に想いを寄せて。
〈協力・写真提供〉
風間満 寄稿日:2021年5月16日
(編集・Beit Lebanon)
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