People's Kitchenから学ぶこと

People's Kitchen/المطبخ الشعبي


キッチンを通して見るレバノン。今回は、南レバノンのサイダで活動するPeople's Kitchen/المطبخ الشعبي にお邪魔しました。


ラマダン中に食事を配る団体はたくさんありますが、People's Kitchenがスタートしたのは、レバノンの経済危機が拡大し始めた2020年の2月から。宗教・国籍に関係なく、日曜日以外毎日、困窮した人々に食事を提供しています。


モロヘイヤのシチュー

さて、この日のメニューは、レバノンの家庭でもよく食べられるモロヘイヤのシチューとご飯。お邪魔した時にはもう、大鍋の中でモロヘイヤがグツグツ煮えていました。見た目はイマイチ?なモロヘイヤのシチューですが、ほっこりする優しい味で、これにたっぷりレモンを絞ったりお酢をかけたりして頂きます。

レバノンではモロヘイヤに鶏肉を入れることが多いのですが、この日はいまや贅沢品になってしまった牛肉のミンチが入っていました。エジプトやパレスチナあたりではウサギの肉を使うこともあります。


キッチンに集う人びと

こちらは、People's Kitchenのシェフ、モハンマド・ミライさん。ドバイやサウジアラビア、イラクでプロのシェフとして働いてきたモハンマドさんは、2児の父です。

彼自身、2020年のコロナ禍と経済危機の中、以前働いていたレストランを解雇されました。今は、朝夕別のレストランで働き、その合間に10:30~16:30くらいまでPeople's Kitchenでシェフを務めています。

こちらはボランティアのみなさん。老若男女、いろんな人が交代制でボラティアとしてやってきます。下準備は前日にするので、この日みなさんが一心不乱にむいていたのは、次の日のメニュー「バゼラ・ウ・ロズ(グリーンピースのシチューとご飯)」に使うグリーンピースでした。

おじいちゃん、おばあちゃんと一緒にキッチンのお手伝いに来ていたレバノン人の女の子。この後、旧市街でパレスチナに連帯を示すデモ行進があるため、クーフィーヤ(アラブの伝統的なスカーフ。パレスチナ抵抗運動のシンボルにもなっている)を巻いて来ていました。マスクとしても重宝しますね。


効率、スピード抜群の共同作業

毎日、食事が配られるのは午後1時半~2時の30分間のみ。毎日長い列ができることに、近所の人達から苦情が出たため、30分で素早く配る方法を編み出した末のことだそうです。

配給時間の少し前から、タッパーや鍋を持った人達が列を作り始めます。食事を受け取る人はそれぞれ番号を持っていて、コンピューターに予め登録してある困窮家庭のデータベースと照合させながら配ります。普段は薬配布の責任者であるサナア・ダッバーグさんが、食事配布の管理もしています。

一旦配給時間が始まると、約500人分を30分で配らないといけないため、みんな大忙しです。登録家族の人数確認、タッパーや鍋を受け取る人、食事をよそう人、などみんなで分担してフル回転で動きます。食事を受け取った人達は、素早く別の台に移り、自分でタッパーに蓋をして袋に入れる作業も、慣れたものです。


そして、エコ・フレンドリー!

みなさん、自分の家族の人数に合わせた大きさの容器を家から持ってきています。ヨーグルトやアイスクリームの空容器を持って来ている人達もたくさんいました。コロナ禍ということもあり、食事を配るプロジェクトのほとんどが大量の使い捨て容器を使っているのが気になっていましたが、この方法はエコでとてもよいと思いました。

こちらの方は1世帯13人分ということで、お鍋を持って来ていました。鍋の片手が取れているのが、しみじみ。。。


アラブ人の心遣い、People's Kitchenの考え方

そして今回、最もアラブ的だなあと思ったのは、食事を受け取る人達(支援事業界ではいわゆる「被益者」と呼ばれる人達)に対する心遣いでした。

家族の名誉が大事なアラブ人にとって、苗字を表明して食事をもらいに来ることは精神的にハードルが高いことです。これを考慮して、People's Kitchenではファーストネームと番号のみですべてが回っていました。データベース上にも苗字は記されていません。

また、これは「チャリティ精神」をもとにしたプロジェクトではない、という言葉をスタッフの方から何度か聞きました。施しは人々のプライドや尊厳を傷つける、というのが彼らの考え方です。よってPeople's Kitchenでは、調理ボランティアとして一緒に働いた後に食事を持ち帰ることを奨励しています。

また、それで経費がまかなえるわけではありませんでしたが、最初は1食LBP1000(レバノン・ポンドが下落する、経済危機前の換算レートで約70円ほど)で食事を提供していたそうです。けれどもレバノンの経済状況は悪化の一途を辿る一方で、LBP1000を払うのも大変な家庭が増えたため、現在は無料で配っています。

経費はレバノンの人達からの寄付、お金だけでなく野菜や物資での寄付もありますが、この経済状態で毎日食事を提供できるほどの寄付があるというのは、レバノン人の底力を見た気がしました。ボランティアも学生から先生、弁護士までいろいろな人達が関わっているそうです。

最後に、食事をもらいに来る人達の写真を撮らないで欲しい、というお願いも、彼ららしい気遣いだと思いました。国際支援の現場では、ドナー側の都合で、「被益者」に何かを配っている写真を撮ることは当たり前のようになっていますが、People's Kitchenから学ぶことは多そうです。

さてさて、間もなく今年のラマダンも終わりです。
そして、彼らの活動はラマダン後も続きます。

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<取材協力>Mohammed Mirai, Sana Dabbagh 現場取材日:2021年5月8日

<文>Beit Lebanon 法貴潤子

Beit Lebanon / بيت لبنان

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